有田焼|イイホシユミコさんの器「bon voyage」の産地を訪ねて

イイホシユミコ「bon voyage(ボンヴォヤージュ)」

 

見ているだけで幸せな気持ちになるイイホシユミコさんの器たち

仏語で一日を意味する「un jour(アンジュール)」、旅に持って行く器をテーマにつくられた「bon voyage(ボンヴォヤージュ)」など、使うシーンや使うヒトの思いが浮かぶ、あたたかな作風で人気の磁器作家・イイホシユミコさん。

先日、ご自身のショップ「yumiko iihoshi porcelain」のスタッフの方とともに、有田に研修旅行で来訪され、ご一緒させていただく機会に恵まれました。

佐賀で代々続く土屋「渕野陶土」の渕野さんにコーディネートいただき、型屋、生地屋、窯元など、各事業者さんたちの工場を巡りながらお話を伺います。

 

圧力鋳込みで「bon voyage」が製造される様子

圧力鋳込みで「bon voyage」が製造される様子

 

石膏型にドロドロに溶かした陶土を注入する「圧力鋳込み」

イイホシさんの器は、瀬戸焼、波佐見焼、多治見焼、信楽焼など、さまざまな産地で作られているのですが、有田で作っているのが「bon voyageシリーズ」。穴のあいた取手がユニークな表情を生む、イイホシさんデザインによる代表的なお皿です。

bon voyageは、石膏で作られた型にドロドロに溶かした陶土を空気圧をかけて注入し成形する「圧力鋳込み」という製法で作られています。生地屋さんで実際にbon voyageを製造している現場を見たショップスタッフの皆さんは、初めて見る光景に「こうやって作ってるんだ!」と感嘆の声を挙げていました。

 

型をあけ、生地を外している様子

型をあけ、生地を外している様子

 

職人さんが手際よく型をあけ、空気噴射のスプレーで端から生地を浮かせます。薄くて繊細なデザインのbon voyageですから、まだ柔らかいこの段階では生地がペラペラと風圧になびくほど。

型から外したら一列に板に並べて、乾燥棚へ。たくさんのbon voyageが並んでいる光景はなんともかわいくて、愛おしい気持ちになります。

 

削り仕上げ

ひとつひとつ丁寧に削り、滑らかに仕上げていく

 

削りや水拭き仕上げをするおばさまたちに、丁寧にやさしく触れられているbon voyageはとても幸せそうで、心が温かくなりました。

この段階でも厳しい検品が行われ、傷のあるもの、ゆがみのあるものなどは、はじかれます。チェックを通らなかった生地は、再び溶かして陶土に戻し、改めて圧力鋳込みで成形するそうです。

 

 

陶磁器の生産は分業制で行われるため、その後bon voyageは窯元へと運ばれ、素焼きや施釉、本焼成などの行程を経てやっと完成です。

ショップスタッフの皆さんも、たくさんの職人さんの手を経て製品が作られているモノづくりの現場を見学し、得るものがあった様子。熱心にメモをとり「お客様にも伝えたい」と興奮気味に話していました。作り手の思いが、売り手を通して、使い手に伝わるってすごく素敵で大切なことだと思います。

 

釉薬がかけられ、本焼成をまつ「bon voyage」

釉薬がかけられ、本焼成をまつ「bon voyage」

 

手づくりとプロダクトの境界にあるものを目指して

ニュアンスのある独特な色づかいのシンプルで繊細な器たち。
量産品でありながら、手仕事感を残すイイホシさんの器は、残念ながら大量生産するには向いていません。

イイホシユミコさん

熱心に記録をとる小柄で華奢なイイホシさん

「お客様のオーダーに生産が間に合っていないのが心苦しくて」とイイホシさん。今回の来訪でも、産地の事業者さんたちと解決策を相談していました。

自宅でもイイホシさんの器をいくつか使っていますが、今回ご一緒させていただいて、その人柄にも魅了されてしまった私。イイホシさんの器の心地よさは、そんな人柄が表れているのかも。

「イイホシユミコさんの器は見ているだけで幸せな気持ちになるんです」。そんな使うヒトの想いが積み重なる器を、いつまでも作り続けてほしいなと改めて思いました。

 


bon voyage

 

 

yumiko iihoshi porcelain
http://www.y-iihoshi-p.com/